影裏
親友の定義ってなんなんでしょうね。
隠し事がなくなんでも話せる相手や、一緒にいて気を使わずに居心地の良い相手など人によって親友というものの考え方は色々だと思います。
僕の場合でいうと、小・中学校から一緒に過ごしてきた地元の幼馴染みが親友と呼べる存在なのかなと。
過ごしてきた時間は関係ないけど、やはり子供の頃からの思い出を共有してきた経験って何ものにも変えがたい大事なものなんですよね。
正直それを超えるような相手には巡り逢えていないっていうのが現実です。
なので育ってきた環境が全然違う相手と意気投合して深い仲になったという経験がないんですよね。
一度はそんな出会いを体験してみたいなあと思ったものです。
今回鑑賞する映画は、勤務先で仲良くなった友達がある日突然いなくなってしまったという物語。
消えた親友の影を追っていくことで、自分とどう向き合っていくのかを見つけていくのではないでしょうか。
劇場での予告を観てなにかと楽しみにしつつ今回鑑賞してまいりました。
よろしければお付き合いくださいませ。
感想
なぜこんなにも今野は日浅に執着するのか?
なるほど・・・そういうことかと思いつつも、やっぱり理解しがたいなあと思ってしまった事実。
最後の日浅の存在を感じる演出に繊細さを感じた。
以下ネタバレがあります。
人の裏側を見てしまってもなお思いやることができる心
単身赴任でひとり、見知らぬ土地である盛岡で仕事を続けていた今野の前に突如現れた日浅という男。
2人はすぐに仲良くなり、一緒に酒を飲み交わしたり休日には釣りに出かけたりと何気ない日常が今野にとってかけがえのないものになっていくんですね。
ここの部分、僕もすごく共感できるところでありまして。
自分も仕事上、単身赴任で地方にひとりで住んでいる身なので、日浅のような存在がいたらきっと毎日がとても楽しいものになっていたんだろうなあと思うわけです。
残念ながら自分にはそういった友達はできなかったので、もっぱら1人の時間を楽しむ生活を送っているのですがw
しかし、ある日突然、日浅は誰にもなにも告げることなく会社を辞めてしまいます。
友達であったはずの今野にもなにも言わずに。
でも連絡しようにも日浅は携帯を持たない人間なのでどうすることもできない。
今野は再び1人の時間を過ごすようになってしまいます。
日浅に教えてもらった釣りを続けているのがなんだか切ない気持ちにさせます。
そんな毎日を過ごすなか、日浅がひょっこりと姿を現すんですがなんとベランダの窓側からという突然すぎる再会。
そこの部分はもちろん、いきなりいなくなってしまったことにもなにも文句を言わない今野と、新しく始めた仕事のことなどいつもの調子で自分のことばかり話す日浅にどっちもどっちだなあとw
なにやら営業マンとしてトップの成績らしいのですが、契約ノルマが厳しいようで今野に入会を頼んできたりと、この辺りからだんだん雲行きが怪しくなってくるんですね。
それでも再び一緒の時間を過ごすことができるようになったのが嬉しい今野はもちろん断りません。
日浅はそのお礼に夜釣りでキャンプをしようと提案します。
今野も快諾していざ当日の夜になるのですが、この日の日浅はいつもと少し様子が違うんです。
スーツ姿のままで現れたことからも、契約ノルマが順調ではなかったのかもしれません。
今野に対していちいち難癖をつけて攻撃的な言葉を浴びせます。
今野もさすがにカチンときたのか反発して2人の間に微妙な空気が流れます。
飲むはずであった酒も今野が拒否したことから、日浅もブチギレます。
「知った気になるなよ、お前が見ているのはほんの一瞬光が当たった所だってこと。
人を見るときはその裏っかわ、影の一番濃い所を見るんだよ」と。
結局今野は途中で家に帰ってしまい、なんとも残念な感じで終わってしまいました。
そしてこの日が日浅と会った最後の日になってしまうのでした。
2011年3月11日の東日本大震災を機に、またも日浅と連絡が取れなくなってしまいます。
そんなある日の仕事帰りに、日浅のいた部署で働いていた西山に呼び止められ話を聞くことに。
西山は今野に、”日浅は死んじゃったかもしれない”と告げるんですね。
なにやら契約ノルマに苦しんでいたらしく、西山に数口の契約をお願いしていたりまとまったお金を借金しており返してもらっていないらしいのです。
痺れを切らした西山が日浅の会社に問い合わせてみたところ、震災の日に釜石に営業に行ったきり帰っていないという返事をもらったとのこと。
自分の知らないところで裏の顔があったことに加え、震災に巻き込まれたかもしれないという事実に今野はやりきれない気持ちになります。
普通なら日浅に対して「あーそういう奴だったのか」となってしまってもおかしくないのですが、今野は決してそんなことはなく日浅の安否確認を行うんですね。
しかしいくら探しても彼の情報は出てこない。
今野は意を決して父親と暮らしていた日浅の実家を訪れます。
ところが父親は捜索願いも出さずにいて、今野の説得にもまるで応じようともしない。
そこで聞かされたのが、日浅は通っていた大学の学歴詐称をしていたという事実、父親を4年間も騙し続けて学費と言いながらお金を受け取っていたというのです。
「息子とは縁を切った。捜索願いは出さない」
絶縁状態の父親のそっけない態度に、またも出てきた日浅の裏の顔に困惑しつつも今野は諦めません。
今度は日浅の兄のところへ訪ねていきます。
しかし兄の反応も父親と似たようなものでした。
「あいつは生きていると思う。どこでも生きていけるやつだ」
父親と同じ意見の兄の言葉に、絶縁状態とはいえ奇妙な信頼感というか日浅のたくましさのようなものを信じているところがいびつな家族関係を表しているのではないのかと思わせるシーンでしたね。
結局日浅のゆくえもわからぬままなにも進展せずに自宅へと帰る今野ですが、郵便ポストに日浅の務めていた会社からの書類が入っていることに気づきます。
今野は慌てて中身を確認してみたところ、それは以前日浅に頼まれて入った互助会の契約コースの変更を促すお知らせの通知でした。
そこには日浅の直筆の署名が書かれた書類がありました。
これを見て今野は号泣してしまいます。
日浅と過ごした、確かに存在していたかけがえのない日々のこと、そして日浅はもういない、もう会うことはできないんだということ。
実際の生死はどうなのかわかりませんが、そんなようなことがよぎっての涙だったのではないでしょうか。
人の裏側を知ってもなお彼のことを思い続けることのできる今野にとって日浅は間違いなく親友と呼べる大切な存在であったのだと思います。
作品冒頭の今野の描写に違和感が・・・
とはいえ、ただただ友情からくる感情だけではなかったんだろうなという気がしていたんですけどこの予想は確信に変わりました。
まず冒頭の引っ越し間もないといった感じの片づけられていない部屋での朝。
朝日が差し込み目覚ましが鳴り今野が目を覚ますのですが、まず飛び込んでくるのがボクサーパンツ一丁の今野の足。
もちろん上半身も裸ですし、そのままパンツ姿でジャスミンの植木鉢に水をあげる様子が丁寧に描かれます。
この時点でなんでここをこんなじっくり見せるのかなーとも思ったんですが、どうしても目がいくのは今野の股間。
さらに次のシーンでは夜に帰宅した後のひとコマなのですが、脱いだ服を洗濯機に入れてそのままお風呂に入っていく時の見事なプリケツ。
やたらと裸を映す描写にちょっとした違和感を感じつつ、なんとなく今野は中性的なキャラクターなのかな程度に思っていたんです。
ところがその違和感がしっくりくる展開が待ちうけていました。
今野と日浅が宅飲みをした夜のこと、眠りこけてしまった際に、ふと目を覚ました日浅が今野の胸の上に蛇が乗っているのを見つけて四つん這いの状態で追い払うんですね。
そして目を覚ました今野は日浅にキスをしようと迫る。
この瞬間、冒頭の今野の描写に納得がいったわけです。
この作品の予告を観た際は、消えた親友の裏の顔というサスペンス要素が強い感じだったのでこういった展開になるとは全く予想していませんでしたが、なるほど合点がいきました。
今野は日浅に対して友情以上の感情を抱いていたんですね。
日浅の方はそういう感情を持っていなかったので、今野の気持ちはすぐにかなわないものになってしまったのが切なくはありますが。
ただ日浅も偉いなと思ったのが、いっとき変な空気が2人の間に流れるんですが次の日には何事もなかったように普通に接するんですよね
関係がこじれることなく、今まで通りのままでいられるのは日浅の自然体な空気感がそうさせてくれたんじゃないかなあと思いました。
日浅のかもしだす得体の知れない雰囲気
飾ることなく自然に距離を詰めてくる日浅は、見知らぬ土地でひとりだった今野にとってかけがえのない存在になったわけですが、関係を深めていくごとに少しずつおかしいなと思うことが出てくるんですよね。
禁煙スペースでの喫煙やいきなり自宅に押しかけて宅飲みなどはまだ全然許せる範囲です。
仲良くなり始めて連絡先の交換をしますが携帯を持たないからと教えないのもまあこういう人いるよなってことでわかりますw
問題はここからで、仲良くなった友達になにも言わずにある日突然会社を辞めてしまって連絡も取れなくなってしまう。
しばらく音沙汰がなかったのに突然現れて何事もなかったかのような振る舞い。
何事にも自由な人っていますけど、さすがにこれはないよなーって思ってしまいます。
挙句に自分の会社の契約ノルマに足りないから互助会に入ってくれと家の前で待ち構え、契約が済むとそそくさと帰っていき、後には待ち時間に吸っていた大量のタバコの吸殻。
今野も怒ることなく受け入れてしまっているのも愛情のなせる業なのかw
自分だったらこういったタイプの人とはなるべく関わりたくないと思ってしまいます。
のらりくらり飄々とした感じで懐に入り込んで周りを巻き込むトラブルメーカーの匂いがぷんぷんしますね。
実際日浅はそういうやつで、同僚から借金をしたり親からお金を騙しとっていたりと、裏ではなにをやっているかわからない人物でした。
日浅の人物像を語るうえでヒントになりそうな部分がいくつかあって、序盤で彼が話していた春先に起きた山火事の痕をを見てきたという話や、母親の葬式の際、号泣していた兄とは違って、参列した人たちや母の遺体に見入っていたというエピソードなんかを聴く限り、何かが壊れることに感情が動かされる性分なのではないでしょうか。
営業先の釜石で震災が起きた時、海岸で津波が来るのをじっと見ていたのもこれからくる崩壊の瞬間に興奮していたのかも知れません。
明確に語られることがないぶん、余計に日浅の得体の知れなさが浮かび上がってくるんです。
ただ日浅の今野に抱いている感情は特別だったのかなーとも思うんです。
同僚の西山には家族にまで契約させたり借金をしたりしていたのに、今野にはそういうことは一切しなかったんですよね。
今野の気持ちを受け入れはしなかったけど、今まで通りの関係は続けていたし、日浅にとっても大事な親友だったのかなあと。
喧嘩した夜が2人の最後になってしまったのが余計にモヤモヤしてしまいますね。
日浅も心残りだったんじゃないかなあ・・・。
映画「影裏」を評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 7/10
今作を手がける大友啓史監督。
「るろうに剣心」や「3月のライオン」でおなじみの人気作を多く手がけている印象がある監督さんです。
僕が最初に大友監督の作品を観たのが、大河ドラマの「龍馬伝」だったんですよね。
この時の印象としては綺麗な映像を撮る監督さんなんだなあという思い出です。
その後の作品として「るろうに剣心」も良く覚えています。
元々原作が好きだったので映画化されるのを知ったときは大丈夫なのかwと思いましたが、実際には全然そんなことはなくて世界観を壊すことなくしっかり作品を描いていました。
売り上げ的にも大ヒットとなり、これ以降次々と人気作品を生み出して行った気がします。
そして僕はなにげに大友監督の作品をほぼほぼ鑑賞していることに気がつきましたw
特別好きな監督さんではないのですがそれでも観ているということは、今までの作品の題材などからも海外を意識した意欲的な作風に魅力を感じたからなのかもしれません。
今作では自然の美しさが一際目立っていたし、今野と日浅の心理的描写もすごく繊細で見応えがありましたね。
今までとは少し毛色が違うけど、きめ細かい映像表現なんか見るとやっぱり大友監督の作風なんだなあと思いました。
終わりに・・・
こうして観終えてみるとなかなか難しい作品だったなという印象ですね。
これといった答えのない描写が続くので注意して考えながら観ないと、さらっと流してしまいそうな気がしてしまって純粋に楽しめたかというと少し疑問に思います。
一度観ただけでは全部理解はできないんじゃないかなあ。
僕自身はあまり考えながら観たりするのが得意ではないのでw
ただ岩手の自然の映像はとても綺麗だし、役者さんの演技も素晴らしかったです。
綾野剛さんの今野の繊細さがとてもよく出ていたし、松田龍平さんに関してはもうこういう役をやらせたら右に出る人はいないでしょうw
あとは今野の旧友の副島和哉を演じていた中村倫也さんにはビックリしました。
めっちゃ似合ってたというか普通に綺麗ですw
人によっては退屈な作品になってしまうかもしれないですが、こういう考えさせられる映画って観終わったあとに誰かと語り合うのが楽しいですよね。
考察とかめっちゃ得意な人にいろいろお話を聞いてみたいと思える作品でした。
どなたかぜひお願いしますw
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。