初恋
「初恋」と聞いて、なんだか切ない気持ちや気恥ずかしい甘酸っぱい気持ちを想像してしまうのは僕だけでしょうか。
やっぱり学園ものや青春ラブストーリーを想像してしまいます。
では実際はどんなお話なの?と聞かれたら、ヤクザとマフィアの抗争に悪徳警官まで絡んだ裏社会のゴタゴタにカタギのボクサーが巻き込まれていくお話というなんともぶっとんだ作品なんだとかw
そんな作品なのになんで初恋なんだと突っ込みたくはなりますがなんだかとっても楽しそう。
僕が映画を観るスタンスとしてひとつルールがあって、前情報をいっさい入れない状態で観るということを徹底しています。
入っている情報としては、映画館の上映前に流れる予告だけです。
ですから観る前と後では思っていたのと全然違う内容だったということが多いにあるんですね。
それがいい方向に働けば万々歳なわけですが、そうではない場合も結構あるのでそっちだったときは少しへこみますw
そんなタイトルだけでこの作品を観てしまうと、とんでもないことになってしまうということを学んだ作品であったのは間違いないと思います。
さてそれが良い方向だったのか悪い方向だったのか。
早速鑑賞してまいりました!
よろしければお付き合いくださいませ。
映画「初恋」を観た感想
がっつりとしたヤクザと中国マフィアの抗争劇に巻き込まれるちょこっと恋愛もの、容赦のないバイオレンスシーンなんだけど、なぜかユーモアが溢れていて笑ってしまうエンタメ要素満載の群像劇にテンション上がりまくりの作品でした!
以下、ネタバレがあります。
絶望感から始まり生きる喜びを知っていく成長物語
親に捨てられて「自分にはこれしかなかった」とボクサーの道を歩んでいく主人公の葛城レオなんですが、とにかく無感情な男なんです。
試合に勝っても喜びもしないし、アルバイト先でもただ黙って言われたことを黙々とこなすだけの毎日。
そんな人生に希望を持たずに生きている彼に突然訪れる「死の宣告」。
脳に腫瘍があり余命わずかと診断され、さすがに感情をあらわにするレオ。
たまたま道端で占ってもらった占い師さんの前向きな言葉に声を荒げて否定をして、あてもなく街を彷徨い半ば自暴自棄になってしまいます。
そこへふと通りかかったある少女モニカの「助けて」という言葉に、とっさに追手の男を殴り倒してしまい少女と一緒に逃げてしまったことから物語は動き始めます。
助けたモニカは借金のカタに自分の体を売ってお金を稼ぐことを強要されてしまったクスリ漬けの女の子だったんですね。
依存症の副作用なのか、かつての父親の幻覚を見てしまいパニックになる彼女にレオは手を差し伸べ一緒に逃げることになります。
今までの彼だったら絶対そんなことはしなかったはずですが、自分が死ぬとわかって最後に人助けでもしようと思ったのか、モニカの境遇に自分と近いものを感じたからなのかはわかりませんがレオはモニカを守っていくと心に決めます。
ここから2人の恋が発展していくのかと思いきやそんな感じにはならず、ただ巻き込まれたレオがモニカを守っていくだけなんです。
「死んだ気になればなんでもできる」とひたすらにモニカを守りとおす姿にはレオの成長が見て取れるし、何より命がけで守るものができたことで彼の人生が一瞬とはいえとても輝いて見えました。
結果的には彼の病気は全くなかったわけですがw(ここの部分のオチはちょっとなあと思いましたがうまく笑いに持って行ったのは良かった)
そしてとても良かったラストシーン。
再びボクシングに打ち込むレオなのですが、もう以前の彼とは違っているんですね。
今までは勝っても涼しい顔だったんですが、今では勝って雄叫びをあげて感情を前面に出していく姿がありました。
一方モニカはモニカでクスリの依存症から抜け出すために必死に自分と戦っている描写がありました。
ダメだとわかっていながらどうしても手を出してしまっていた薬物と決別するための覚悟が見えたのは、モニカもまた自分の過去に向き合い成長できたからなのかもしれません。
もちろんレオの存在がとても大きかったと思います。
最後にはレオとモニカが仲睦まじそうにマンションの部屋に帰っていく姿を引きの絵で見せてくれます。
細かい表情はわかりませんが2人がとても幸せそうなんだなと嬉しくなるシーンでした。
結構がっつりした抗争劇にびっくりするものの・・・
今回初恋というタイトルからもレオとモニカの恋のお話なのかなと思っていましたが、蓋を開けるとまあとんでもないw
2人は巻き込まれただけで、その巻き込んだ側のヤクザ達と敵対している中国マフィアとの抗争がメインのしっかりヤクザ映画でした。
事件の発端は組の若手の策士である加瀬が練った計画にありました。
知り合いの悪徳警官と組んで組の資金源となるブツを横取りしようと画策します。
しかしこの加瀬という男がなかなかのポンコツでして。
レオが関わってしまったことはまあ計算外だったとしても、それ以外の対応がまあその場しのぎの行き当たりばったりの連続なんですね。
ブツを監禁部屋に運ぶ係のヤスをスタンガンで気絶させてブツを奪うはずが、ドアに手をぶつけてスタンガンを落としてしまいヤスに正体がバレてしまいますw
勢いでヤスを殺してしまったことから雲行きが怪しくなっていきます。
ヤスの彼女であるジュリを気絶させ彼女の家に運ぶも、まさかのおばあちゃんが登場に焦って殴り殺してしまうんですね。
「こういう場合普通一人暮らしだろ!」というツッコミには笑いましたがw
このゴタゴタのせいで、ジュリにヤスを殺した犯人だということがバレてしまいます。
そのあとも計画がバレてしまった同僚にブツを取られそうになるも、またしても殺してしまうことでなんとかその場を凌いだり。
そんな行き当たりばったりだからついには組にも計画がバレてしまい追い詰められるんですが、今度は開き直って打たれた傷にブツを塗り込んで痛みを感じなくなるというめちゃくちゃな展開になってしまいますw
こんな感じでちょいちょい挟むユーモアがドロドロとしている内部抗争を重くしすぎないというか、むしろ笑ってしまう部分もたくさんあってとても観やすくなっているんですよね。
そしてその組内でのゴタゴタに乗じて中国マフィアも絡んできます。
マフィアのボスは出所した権藤と因縁があり、以前の抗争で片腕を斬られてしまっていました。
組のシノギを奪うのはもちろん、自身の因縁にも決着をつけるべく動き出します。
モニカを狙って集結した両軍が入り乱れての戦闘の幕が開けることになります。
舞台はホームセンター。
身近なものが全て武器になるというなんともワクワクするシチュエーションですねw
以前「イコライザー」という作品を観たときにこのホームセンターで戦うシーンがあったのですが、その場にあるものを武器にして手を替え品を変えという感じで、次々と相手を倒していく描写にテンションが上がりっぱなしだった記憶があります。
結果的にはこの期待は外れてしまいました。
特にその場の武器を使うこともなくそれぞれ用意していた武器で戦っていたので、せっかくのホームセンターでの戦闘なんだからもっといろいろ手にとって戦って欲しかったなあと思いましたね。
何はともあれそれぞれの因縁の相手と命の奪い合いが始まるわけです。
恋人ヤスを殺されたジュリと、ブツによって無敵と化した加瀬の戦いは完全に両者ともイっちゃってました。
腕を切られても痛くない加瀬は切られた腕に握っていた拳銃を外そうと一生懸命なところがなんだか可笑しかったですし、仁義の漢、権藤とマフィアのボスとの戦いは緊張感があるなかでの刀での斬り合いがめちゃくちゃカッコよかったです。
レオの方もモニカを守るための、拳と拳の殴り合いが生きるための必死さが伝わってきて心動かされました。
それぞれの戦いを面白可笑しく描いたり、緊張感を持たせたやりとりにしたりと大混戦ではあったものの、ひとつひとつしっかりと決着が描かれていたので見応えがありましたね。
ぱっと見バイオレンス描写が目立ちますが、そこまで眼を背けたくなるほどではなくエンタメ感満載で見ることのできる内容だったのが、抗争劇でありながら見やすくなっているんだなと思いました。
生き生きした濃いキャラクター達に釘付け
この作品で何が一番良かったかというと、なんと言っても濃すぎるキャラクター達に尽きます。
まずは染谷将太さん演じる加瀬なんですが、先ほどから何度か申している通り頭のキレる奴かと思いきや結構抜けているところ満載で、なんだかんだ勢いで解決はしてしまうところも可笑しかったりします。
染谷さんのこういったへっぽこ感満載の役ってあんまり見たことないので、まずそれが新鮮でしたしコメディなんかもバッチリいけるんだなあと思いました。
そして彼以上に強烈なインパクトを放っていたのがベッキー演じるジュリでした。
最初の方こそヤスにべったりなだけの彼女って感じでしたが、追い詰められるごとに豹変して相手を容赦なく叩き潰すさまなんかは、振り切ってるなあと感心してしまいましたね。
今後のベッキーが演じる役が楽しみです。
そして個人的に一番好きになってしまったキャラが内野聖陽さん演じる権藤ですね。
昔気質の仁義を重んじる極道といった感じでとにかくカッコいい!
僕はもともと「仁義なき戦い」の菅原文太さんが好きでよくヤクザ映画を観ていたので、こういった自分の身一つでのし上がって来た武闘派ヤクザが好きなんですよね。
刑務所から出所したときのタバコを吸うシーンとか、組長代行にたんか切って攻め込もうとするところとかシビれますw
マフィアのボスと一対一で戦う時の刀を抜くところも緊張感がピーンと増してゾクゾクしました。
そして堅気には手を出さない優しさも兼ね備えているし、密かに葛城レオのファンだったんですかね?ちょっとお茶目なところも素敵でした。
仁義が大好きなマフィア側の殺し屋チアチーとの絡みがちょっと見たかったなあw
そして今回ヒロインのモニカ役に抜擢された小西桜子さんも良かったですね。
まだ新人さんながら、薬漬けにされてしまった少女という難しい役どころを見事に演じていたと思います。
徐々に生きようとする意志が溢れてくる感じとかすごく伝わりました。
とにかく登場人物たちがホントにみんな生き生きとしていて、全員がいなければこの作品が成立しなかったというくらい魅力的なキャラクターが織りなす物語でございました。
キャスト情報を詳しく知りたい方はこちら
小西桜子さんについて詳しくはこちら
映画「初恋」を評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 7/10
今作を手がけるのは海外からも高い評価を得ている三池崇史監督。
数々の作品をジャンルを問わず生み出し続ける超有名監督ですが、当たり外れが多いことでも有名な方ですw
なんでも、来た仕事を断らないのがモットーなんだとか。
そのスタンスのせいなのかホントに色々なジャンルの作品を手掛けていて、最近では漫画原作ものが多い傾向にありますね。
やっぱり原作ものはファンの目が厳しいので、なかなか評価的に残念な作品ばかりになってしまっているのがもったいない気がします。
僕の三池監督のイメージは、「時代劇の時だけ本気を出す!」みたいな感じでしょうかw
特に「十三人の刺客」や「一命」なんかは個人的にすごく面白かったですね。
今回は抗争劇ということで結構バイオレンスな描写もあって、アクションシーンも見応えがありました。
久しぶりに三池監督の本気が見れた気がします。
シリアスとコミカルのバランスもちょうど良くて、観やすい作品に仕上がっていました。
映画賞にノミネートするくらいなので、いろいろと意識して作っていたのかもしれませんね。
終わりに・・・
初恋というタイトルからは想像できないくらい、生首や銃撃戦での血が飛び散るシーンなどバイオレンスな描写がこれでもかと出て来ますが、それを上回るくらいのユーモアがなんだか笑ってしまうし、エンタメ映画としてすごく観やすくなっていて、観終わった後の爽快感やほっこりとした気持ちが味わえるとても良い作品でした。
ラストで初恋のタネあかし的なシーンがあって、なるほどそういうことかと思わせてくれたのでスッキリしました。
やっぱり初恋って淡くて気恥ずかしくて、なかなか実らないよなあって感じですw
それぞれが抱えていたものを乗り越えて、これから2人はどう生きていくのか楽しみに思えると同時に、最後の何気ない日常を見る限り何も心配はいらないなと感じることができました。
三池監督の作品の中でもとびきり好きな作品になりました!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
映画「初恋」のキャスト情報はこちら