Fukushima 50
2011 3.11 PM14:46
この日は普通に店舗で仕事をしていました。
地震だ!と思いながらも特に気にすることなくそのまま業務を続けていたのですが、なんだかやけに揺れが大きい。
揺れている時間も長く感じ、これはいつもの地震とは違うなと自分も周りも危機感を覚え始めました。
徐々に騒然となる現場に焦りを感じつつ、お客さんの一時避難誘導を行いその場はなんとか無事に収まりました。
落ち着いたところで電話連絡をしようにも全然繋がらず安否確認も取れない状況。
交通機関もストップし帰宅しようにも帰る手段もなくなってしまい、職場の近くに住んでいる同僚の家に泊めてもらう事に。
街の明かりは消え停電状態のなか、黙々と歩いて帰る人々たちにこれからの不安を感じずにはいられませんでした。
阪神大震災の時はどこか他人事のような感覚で見ていた光景が、今まさに自分たちに起きているんだと実感した一日となったのを覚えています。
あれからもう9年も経つんですね。
今回鑑賞した作品は、あの未曾有の大災害のなか起きてしまった福島第一原発事故を題材に、命をかけて戦い続けた作業員たちの知られざるドラマです。
当時はニュースで観ていた程度の認識なので詳しいことはわかりませんが、ようやくこの大事件のことが映画化されるということだったので、あのときの当事者の方たちの様子を見届けたいと思い鑑賞してまいりました。
よろしければお付き合いくださいませ。
Fukushima50を観た感想
人災だといって原発事故を批判していた人たちに観てほしい。
現場の人たちが命がけで必死に戦ってくれたから今があるんだと。
そしてあの日の出来事をいつまでも忘れないように今を精一杯生きていこう。
以下ネタバレがあります。
官邸側、東電本店側の描き方には少し疑問も・・・
今回の作品を観て実際の事故現場での描写はとてもリアルで、こちら側にも緊張感が伝わってくるし原発事故の凄まじさを知ることができたとても貴重な体験だったと思います。
対して少し違和感を覚えたのが官邸側や本店側の描き方についてです。
今作は現場で働く作業員Fkushima50の皆さんがメインのお話なので、当然現場視点から見た福島第一原発事故のストーリになっています。
ですので現場から見た官邸、本店の見え方になっていると思うんですね。
エンタメとしての映画ですし、悪役的な感じで現場を荒らす上の連中たちという描き方をしているのもわかります。
実際、無理なことを言ってくる本店や何も知らないのに口を出してくる官邸に見ていて腹が立ちました。
ただその悪役的な描き方がちょっと一方的なんじゃないかなあと少し思うところもありました。
特に特徴的だったのが佐野史郎さん演じる総理大臣なんですが、この方がまあ、あたり構わずよく怒鳴る。
というかわめき散らすと言った方がいいでしょうか。
「現場はどうなっているんだ!」「本店は何をやっているんだ!」という感じで常にヒステリックに感情をぶつけている。
実際確かな情報もなかなか降りてこなかったでしょうし、専門家に任せるしかないと思いますが、それにしても一国のトップとしての対応がこんな感じなのかなと疑問に思ってしまいました。
官僚側や本店側の人たちは実名ではなく、あくまでそっちのひとという感じで出ていたことから色々と大人の事情的なものを意識してしまいますが、やっぱり観ている側としては当時の政権を思い出してしまうわけです。
ですのでそのギャップがどうしても違和感として残ってしまったのは僕だけでしょうか。
事実として、総理が視察に来るせいでベント作業が遅れて被害が拡大してしまったかのような描き方に写ってしまっていましたが、そんなことはなくあくまでも手動で行う作業なので準備に時間がかかって遅れてしまったと事故調査委員会の報告書に書かれているようです。
現場の吉田所長の立場からしてみれば、あの混乱の中で早急な対応が求められるなか、感覚的に上の指示で作業を止められた認識だったのかもしれませんが。
連絡系統など、すべての物事が悪い方向に重なって起きてしまったこともあるかもしれないと思いつつも、官僚側、本店側の視点からもしっかりと真実を語ってくれる機会があればいいなと感じましたね。
目を塞ぎたくなるような絶望感の連続
3月11日の大震災当日から2号機格納容器の圧力を防ぐまでを、現場の作業員、緊急対策室、東電本店、官邸、地域住民の緊迫したやり取りや不安な様子が、福島第一原発事故がいかに深刻なものだったのかを存分に見せつけられました。
冒頭すぐに大地震が原発を襲うシーンにいきなり緊張感が走ります。
経験したことのない大きな揺れに訓練通りにしっかりと対応する者がいれば、この発電所は大丈夫だと結構楽観的な対応をする者もいて慌ただしい所内ですが、この後訪れる大津波によって事態は深刻で取り返しのつかない状況になっていきます。
10mも高いところにあれば津波に襲われることもないだろうという見立てでしたが、完全に想定外の大きさとなった津波によって発電所が浸水、非常用電源が停止してしまったことから核を冷やす手段がなくなってしまい、格納容器の温度が上がり続ける危険な状態に陥ってしまいました。
このままではいずれ核燃料が漏出してしまい放射能汚染、いわゆるメルトダウンが起きてしまう危険性が出てしまう事に。
すぐに緊急対策室が設けられどう対処していくのかを本店との緊迫したやり取りを見せられる事で、事態は非常に危険で深刻な状態であるということがわかります。
観ているこちら側としてはある程度の結果を知ってしまっているだけに、余計に見るのが辛くなってしまいます。
津波で車が流されてしまっている様子や建屋が爆発した映像はニュースでも観ていた内容だったので、実際にこういったシーンが出てくると目を覆いたくなる描写ばかりで観ていてしんどかったですね。
そんななかでも事態はどんどん悪化していくので、早い段階から国家的にも非常事態宣言として国民の不安を一斉に浴びてしまう状況になってしまいます。
現場としては一刻も早く復旧作業を進めていきたいのですが、そんな現場の姿勢と本店や政府の対応が噛み合わずなかなか作業が進まない。
政府は総理が視察が来るだの早くあれしろこれしろだの何かと横槍を入れてくる。
上である本店はそんな政府の言いなりで現場に無理な注文を押し付けてくるだけ。
現場のトップである吉田所長はそのたびに怒りを表し怒号を浴びせるんですね。
少しは現場のことを考えてくれと。
危険な状況のなか作業員たちは命をかけて戦っているのに、上の連中はまったくお構いなしで現場を無視した指示を送ってくるんですよね。
理不尽なお偉たちの要求に真っ向からぶつかっていった吉田所長には胸が熱くなりました。
普通だったら上司の命令には逆らえないと思うんです。
でも事態は一刻を争う状況だし作業員の命の危険も関わってくるなかで、全部を聞いてはいられないと、時には指示を無視して行動に移す場面もあったり。
作業員からしたらこれほど心強いトップはいないんんじゃないですかね。
現に危険な状況の中でもみんなが率先して作業にあたる責任感の強さがあり、当直長の伊崎のもと団結してるチーム感なんかを見ていると、お互い信頼しあっている結束力の強さみたいなものを感じましたね。
そして作業から戻って来た人たちに労いの言葉をかける優しさもあり、こんな上司の下で働きたいなと思わせる人柄がありました。
ベント作業に失敗した作業員の「すみません!すみません!」と悲痛の叫びや、これから先は命の保証はできないから希望者だけで行うという伊崎の一言に「自分が行きます」「俺もい行きます」と次々に手を挙げる作業員たちが全てを物語っているのではないでしょうか。
もちろん「意味のない作業だ」と疑問に思う者も出てきます。自分がその立場だったらなかなか手をあげられないなと。
ただ伊崎の「俺たちがやる以外ないだろう」と覚悟を決めた姿勢にみんなついて行くのを見て、改めて失敗が許されない厳しい立場にある仕事なんだなと感じさせられました。
そして危ういバランスの上に成り立っているものを、いとも簡単に吹き飛ばしてしまう自然の力の恐ろしさも知ることもできました。
本当に未曾有の大災害だったんだと。。。
制作されたことの意義
不満な点もいくつかあるのは事実ですが、とはいえあの福島第一原発事故を扱った作品は初めてですし、事件の裏で起きていたことや命がけで戦い続けた勇気ある職員の方々たちのことを知れたのは、とても意義のあった作品だと思います。
日本ってこの手の、実際の事件を扱う作品てなかなかないような気がします。
海外では積極的に作品にしていく姿勢で、それを観た方たちがいろいろと意見を出し合ってますよね。
邦画ももっとこういった作品をたくさん出して欲しいですね。
もちろんエンタメ作品ですし、全部が全部語ることはできないのはわかりますがやっぱりもっと踏み込んだ作品を観たいという思いもあります。
政治が絡んでくるとどうしても動きが鈍ると言いますか。
今回この作品が出たことによって、第2、第3の映画が作られてくれればいいなあと切に願います。
あの日の出来事を風化させないためにもぜひ挑戦していってもらいたいものですね。
Fukushima50/フクシマフィフティを評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 7/10
事故当時の現場の凄さが絶望感と共に襲ってくる。
悪役としての官邸や本店側の描き方は事実と違う部分で違和感を感じるも、ニュースでは報道されなかった真実を知ることができるとても貴重な作品になったと思います。
第44回日本アカデミー賞で数々の賞を獲得したことも大きな意味があるのではないでしょうか。
そして今も現場の方達は戦っているという事実を忘れないようにしたい。
終わりに・・・
今回好き勝手に自分の意見を述べてしまいましたが、この作品が良かったのはやっぱり現場視点で描いてくれたところです。
当時の事故がいかに悲惨なものだったかがよく判りましたし、彼等たちのおかげで今があるといってもいいくらい、作業員の皆さんの覚悟を知ることができました。
実は僕も3.11の震災があった後、「何かしなくては!」とあてもなく宮城県に引っ越ししてしまい復興の仕事をするようになったんです。
宮城に岩手に、そして福島にも行きました。
街だけ見ると一見震災なんてなかったかのような賑わいを見せていますが、少し離れたところや海の近くなんかに行くとやはり震災の被害の跡ってたくさん残っているんですね。
僕がいった気仙沼や釜石は津波に流されてしまってまっさらのようなところもありましたし、福島の高速道路には放射線量が書かれた電光掲示板があったりします。
まだまだ復興できていないところがたくさんあるんですよね。
仮設住宅も少なくなっているとはいえ、まだそこに住んでいる方々もいます。
こういった作品が出ることで、あの日の出来事を風化させずに、より良い復興の道へと向かって欲しいと願います。
Fkushima50の皆様方に感謝の気持ちと、素晴らしい作品を制作してくれたすべての方々にありがとうございました。