最初の晩餐
最後の晩餐ていうのは聞いたことあるけど、最初のってどういう意味なんだろう?
この作品のタイトルを見た時に思いました。
予告を観て、死んだ父がかつて作ったご飯を、母が振る舞うことで離れてしまった家族が再び繋がっていくお話なんだと分かって、家族の食卓が関係してるんだなと納得。
家庭の味ってそれぞれ違うと思うんですが、好きだったご飯、思い出のエピソードが詰まったご飯、これは小さい時こうだったなあっていうのみんなあると思うんです。
ちゃんと家族揃って食べる家庭もあれば、お金だけ置いといて好きなもの買って食べてなんてのもあるだろうしさまざまですよね。
僕は後者でした。
家にひとりぼっちということがほとんどだったので、家族で食卓を囲むという経験はほとんどありませんでした。
その家のご飯について知るだけでも家族の形が見えてくるから不思議なものです。
今回の作品は家族がテーマのようなので、僕の大好きなジャンルです。
僕自身があまり恵まれている方ではなかったので、家族について憧れというか羨ましさがあるんですよね。
なので家族愛ものってどうしても気になってしまうんです。
そんなわけで早速鑑賞したわけですが、
よろしければお付き合いくださいませ。
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最初の晩餐を観た感想
食卓を囲んでいた料理を振り返ることで、あのときの記憶が蘇る。
忘れられない味をきっかけに止まっていた時間が動き出す、家族の温かさが伝わる物語。
以下ネタバレがあります。
シュンが家を出た理由は母の秘密にあった?
家族の頼れる兄貴としてなくてはならない存在であったシュン。
お互い連れ子同士でギクシャクしていた家族を繋いでくれていた存在でもありました。
特に麟太郎はシュンに懐いていたし、日登志は登山のパートナーとして共に絆を深めていきました。
そんな家族の中心にいたシュンが突然家を出ていってしまいました。
ようやく家族として、これからを過ごしていけそうな気がしてきた矢先にです。
その理由は日登志とアキコの出会いとその裏にある秘密が関係しています。
お互いが不倫状態であったこと。
アキコの元夫はそのことがショックで自殺未遂をして寝たきり状態になっており、最近亡くなったということ。
全部わかったうえですべてを受け止めた日登志がアキコを支えていたこと。
日登志は一緒に山に登った時にシュンに真実を打ち明けました。
普通では理解し難い関係の事実は、シュンには耐えられなかったのかも知れません。
そしてうまくいきそうであった家族を捨て家を出ていってしまったことから、残された麟太郎と美也子も家族というものに対して疑問を持つようになっていってしまいました。
このことをきっかけに家族の時間は止まったままになってしまったんですね。
家族がテーマの作品は数多くありますが、大抵は血のつながりをめぐっての絆を描いているものがメインなのかと。
この作品はその部分を超えて、いびつな愛のかたちの末に築かれた家族という、さらに重たい事実が乗っかっているんですよね。
これはさすがに子ども側からしたら受け入れられないと思います。
現に麟太郎と美也子にはこの事実を打ち明けていないことからも明らかです。
シュンを信頼していたからこそ日登志もこの事実を打ち明けたのでしょうが、まだ早かったのかも知れません。
時間をかけて自分の中に消化する必要があったんだと思います。
シュンが帰ってきたのは日登志のお通夜の時でした。
自分の子どもを連れて、父と同じ登山家をしているシュンが現れたことによって、家族の時間がまた動き出し始めることになります。
日登志と同じように父親になったことでわかったこともあるのかも知れませんね。
昔と変わらない頼れる兄貴が帰ってきました。
麟太郎がおはぎで涙ぐんだ意味を考える
物語のラストで麟太郎の彼女からおはぎを受け取ったとき、涙を流すシーンがありましたがそんな意味が込められていたのでしょうか。
単純にうまくいっていなかった彼女の優しさに流した涙だったことも含まれているのでしょうが、やっぱり父日登志に対する想いがこもっていたのではないでしょうか。
日登志が家族の為に残した手料理のレシピには、実は魚やキノコが嫌いだったという事実を麟太郎たちは知ることになります。
家族の食卓に並んでいて、みんなと一緒に美味しそうに食べていた姿は嘘だったんですね。
父がおはぎが好きだったこと、嫌いなものを普通に食べていたことなど、家族なのに全然知らなかった。
父のことを全く理解していなかった後悔や、逆にそんなことも話してくれなかったことへのちょっとした怒りもあったのかもしれません。
同時に父の強さに対する尊敬の念も込められているのではないでしょうか。
泣き言をひとつも言わず、妻の秘密も受け入れ、一家の大黒柱としてひとりで家族を背負っていたことへの感謝の気持ちがあったはずです。
そういったさまざまな感情が入り混じった涙だったんだと思います。
料理を通じて絆が深まっていく家族
亡くなった父の通夜の席での通夜振舞いを通して、いかにして家族の絆を深めていったのか、また今まで明かせなかった真実に戸惑いながらも絆を再確認し、再び家族として再生していく様を描いた心温まる物語でした。
父日登志の遺言で通夜振舞いは母アキコが作ることに。
出されたメニューは、家族として過ごした思い出の詰まった料理だったのです。
メニューが出されるたびに、その料理をきっかけに思い出されるエピソードによって、家族の絆がどう深まっていったのかがわかる構成になっているんですね。
最初に出てきたのがチーズと一緒に焼いた目玉焼き。
お互いの家族が初めて一緒に住むことになったばかりの話で、初対面の緊張からアキコが盲腸になって入院してしまい、日登志が作ることになった料理がこの目玉焼きです。
手際も悪いし、ハムの代わりに慌てて入れたチーズと一緒に焼くというなんとも料理慣れしていない男めしだったんですが、これが意外と美味しい。
みんなが気に入ったものだから、ことあるごとにこのチーズ目玉焼きを作っていたという、不器用な父親が家族のために頑張る最初の大仕事になったわけです。
普段物静かなしかめっ面の父親が「美味しくなーれー、美味しくなーれー」と言いながら料理をしている姿にちょっと笑ってしまったのと同時に、心の暖かさが伝わってくる素敵なエピソードでした。
父親の次は母親の出番ということでアキコの出番、次のメニューはお味噌汁です。
お互い違う環境を生きてきた家族同士が一緒になれば、今まで当たり前だったことが当たり前でなくなるのも仕方のないことです。
その一番わかりやすい例が、毎日食べるであろうみそ汁の味付けです。
家庭によって定番の味というものは違うもの。
アキコが作ったみそ汁は赤みその味でしたが、日登志の家の味は白みそだったんですね。
白みそじゃないと嫌だとごねる美也子に対し、兄のシュンが「だったら食べなきゃいいじゃん」というものだからさあ大変。
美也子は反発し食べることを拒否して冷やを出ていってしまう。
翌日アキコは美也子に合わせるように白みそのみそ汁を作ると、今度はシュンが拒否。
どちらかに合わせると、とどちらかが食べないという困ったことになってしまうわけですが、アキコは赤と白の合わせみそで作ることで二人を黙らせてしまうんですね。
さすが母は強しというところでしょうか。
美也子もシュンも素直に受け入れることで一件落着したという、ちょっと面白い思い出となっていました。
確かにみそ汁って好みのこだわりが強い気がします。
僕も母親が作ったのと、おばあちゃんが作ったのでは味が全然違うんだなと思っていたのでこの気持ちはよくわかります。
ただ僕は白みそが好きですが、赤でも合わせでも文句は言いませんw
それにしてもアキコが作るみそ汁は具だくさんで美味しそう。
他には、麟太郎とシュンが焼いもを一緒に作ることでお互いの距離がグッと縮まり、これを機に麟太郎はシュン兄と呼ぶことになった兄弟間の話。
骨が喉に詰まってしまい魚を食べるのを嫌う美也子に、骨が喉に詰まらないおまじないを教えそれを実際に行うと本当に喉に詰まらなくなったという話。
美也子はアキコに対してまだ心を開いていなかったんですが、この件をきっかけに徐々にアキコに心を開いていくようになっていきます。
美也子はみそ汁の時も前の母親のことを強く引きずっていたので、新しい母となったアキコに対してかなり拒絶反応が出ていたんですよね。
アキコもかなり気を使いながら接していた感じだったので、このエピソードがふたりの距離をだいぶ縮めるきっかけになったようで良かったです。
そしてお通夜の時に初めて分かったのが、実は食卓に並ぶ前にアキコが骨を全部抜いておいてくれていたんですね。
美也子は「余計なことを・・」と言ってバツが悪そうな顔をしますが、内心嬉しかったんだと思います。
アキコも美也子と打ち解けようと必死だったのかもしれないですね。
日登志がシュンと山登りをした時には、必ずしめじの入ったピザを振る舞っていたこと。
アキコがしばらく家を空けてしまった時には、心配で固まっていた日登志を、子どもたちがみんなでシーチキン入りの餃子を作って励ますような一幕があったこと。
台風の日に美也子が作ったラーメンを食べたときは、これが家族みんなで食べる最後の食事になってしまう悲しい思い出でした。
アキコが家を空けたいた理由が原因で、うまくいっていた家族に徐々に亀裂が入ってしまっていました。
理由を知ったシュンは家を出ていってしまうことになった、悲しい思い出の料理でした。
まだギクシャクしていた頃、慣れていった頃、すっかり家族として過ごしていた頃と、ひとつひとつの料理に面白さや悲しい思い出が詰まっていて、家族の絆が深まっていく様子やそれが壊れてしまっていく切なさなどが描かれていて色々と考えさせられましたね。
日登志の遺言で思い出の料理を振る舞うことで、残された家族の止まってしまっていた時間をまた動かそうという父の思いが込められていたのではないでしょうか。
田舎の狭い町の体質
血の繋がっていない家族同士が突然一緒に暮らすことになり、ひとりひとりが戸惑いながらも少しずつ絆を深めていき本当の家族になっていくのはとても素敵ですが、ひとつ避けて通れない問題が世間の目です。
地方の山の中の小さな町なので、ちょっと他所と違うだけでやれあそこはどうだとか、大丈夫なのかだとかいらない噂が広まったりするんですよね。
都会であれば他人に干渉しなかったり、さまざまな形のあり方があるから気にも留めないことなんでしょうけど、田舎は違います。
麟太郎のおじさんがまさにそうで、「アキコと美也子はうまくいっているのか」「ふたりが一緒になったときはこの町で噂になったもんだ」とか世間の目を気にすることばかり言ってくる。
カメラマンや山登りで飯食っていけるのかと余計な小言を言いてきたり、そりゃ麟太郎もイラッとします。
「東京じゃ普通ですよ」とピシャリ。
せまい田舎の閉塞感というか風習なのかわからないですけど、ホント「これはこうあれはあれ」みたいな固定観念の塊なんですよね。
麟太郎もそういうのが嫌で東京に出たんだと思いますし、大事なものは血縁ではないということをこの家族を見てきたらわかると思うんですけどねえ。
麟太郎がおじさんに掴みかかったのも、「俺たち家族にわかった気で入ってくんな」という気持ちが爆発したのではないでしょうか。
今の時代ご近所さん同士のつながりがなくなり寂しい世の中になったとか言いますけど、こういう感じのつながりならいらないよってなりませんかね。
いつの時代の話をしているんだよって思ってしまいます。
家族ってなに?
終盤のシーンで麟太郎が「家族ってなに?なんで家族を作ろうとしたの?わずらわしいだけなんじゃないの?」と疑問を投げかけるんですね。
小さい頃いきなり現れた新しい母と兄、父がなにを考えていたのか、ようやくちゃんと家族っぽい感じになっていたのにまた壊れてしまった。
麟太郎には理解し難いことばかりで、いざ自分がこれから家庭を持つかもしれない立場になったとき、なにがいいのか悪いのかホントにわからなかったんだと思います。
アキコもまたわからなかった。
だからこその今の他所から見たらいびつな家族のあり方だったのかもしれない。
「だけどあなた達と家族になれたことに決して後悔していない」ときっぱり言うんですね。
もう一度やり直せたとしても同じ道を辿ると思うと。
どうすれば良かったなんてわからないし、今の状況が良かったわけじゃないけど5人で暮らした日々は紛れもない家族だったんではないでしょうか。
日登志の日記に書いてあった「またいつかみんなで一緒に」という夢は叶いませんでしたが、彼の思い出が詰まった料理をきっかけに再び家族が一緒になったのではないでしょうか。
父が最後に食べたすき焼きをみんなで一緒に食べて。
シュン兄の「すき焼きにピリ辛ラー油いれるとうまいんだぜ」が頭から離れません。
最初の晩餐を評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 8/10
家族について深く考えさせられたと同時に、思い出の料理でつながる絆にも温かい気持ちになりました。
止まった時が徐々に動き出す家族に感動です。
終わりに・・・
豪華キャストによる5人の家族のお話は、心暖まるやさしい味がする素敵な作品でした。
不器用だけど芯が強いお父さん、少し影があるが愛に満ちていたお母さん、寡黙で優しいお兄ちゃん、勝気で明るいけれど寂しがりやなお姉ちゃん、家族というものに戸惑っていた弟。
それぞれが抱えている気持ちや問題をなんとか解決しようともがいてる姿に、現実の僕たちと変わらないんだなと思いましたし、最後にみんなの止まっていた時間が動きだしたのを見て、家族の大切さやありがたさに気づけた気がします。
いろいろな家族がありますけれど、やっぱり胃袋をつかむって大事なことなんだなと思いました。
とりあえず作品内で出てきた料理を真似して作ってみることにしますw
ほっこり温かい気持ちにさせていただきました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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