ホテル・ムンバイ
実在の事件を取り扱った作品ってたくさんありますが、どれも観ていてハッとさせられる内容でその事件のことを深く考えるきっかけになることが多いです。
今回の作品はその中でも特に強いメッセージが込められているものとなっているのではないかと予告を観ていて思いました。
インドで起こった同時多発テロが今作の舞台です。
テロっていうと僕はやはり9.11のことが真っ先に出てきてしまいます。
あの映画でも観ているかのような、信じられない光景が忘れられません。
僕ははこのインドの同時多発テロのことは全然知りませんでした。
調べて見ると日本の方も一人犠牲になっていたようです。
あまりだいたい的には報道されていなかったのかもしれませんが、こう言ったテロ事件は世界各地で頻繁に起こっているんですよね。
それまで普通に暮らしていた何気ない日常が、理不尽な暴力によって一瞬で崩れ去ってしまう現実にもっと目を向けなければいけないのかもしれません。
平和な日本で暮らしているからこそ、この作品を通じてもっと他国や世界の情勢のことを考えるきっかけになればいいのかななんて思い、今回の観賞となりました。
よろしければお付き合いくださいませ。
感想
何気ない日常が一瞬で凄惨な殺戮の場となる恐怖。
異常な緊張感と絶望的な状況のなか、宿泊客を救おうとする名も無き英雄たちの勇気に心が震える。
以下ネタバレがあります。
無慈悲な死を描く演出が恐ろしい
画像はすべて公式HPより引用。
実際に起こった同時多発テロによるホテル襲撃事件により、多くの命が奪われるなか宿泊客の安全を最優先し、命を懸けて戦う従業員たちの勇気ある脱出劇を描き、無慈悲な殺戮によるテロの悲惨さ、テロリストを作り出してしまう国の生活環境の貧困さも浮き彫りにするなど、両者の視点からテロを描くことによって見えてくる平和への希望を込めたスリリングなエンタメ映画でした。
キャッチコピーの奇跡の脱出劇という言葉に、犠牲はほとんど出さずに解決したんだなと思っていたので、最初の銃声から始まる容赦ない殺戮の連続に驚きを隠せませんでした。
テロリストたちはもう本当に簡単に殺していくわけです。
それまで普通に流れていた何気ない日常が一瞬にして地獄と化してしまう恐ろしさが急にやってくるんですね。
いつ誰が殺されてしまうのかまったくわからない緊張感がそれこそ最後まで続いていくので観ている間ずっと息が詰まっている感じです。
それこそこの人結構フューチャーされているなという人物もあっさりと殺されてしまったりと、テロがいかに無慈悲な暴力なのかと観ている側に突きつけられているような気がします。
そしてアサルトライフルやグレネードなど強力な武装で身を固めているテロリストたちに対して、地元の警察は拳銃ひとつで立ち向かうという頼りなさ。
頼みの綱の特殊部隊の要請も、1300kmも離れたデリーからの到着を待つしかなく、どう考えても間にあうはずがないと言う絶望感。
作中のホテルにいた人々や観ている側にも叩きつけられる残酷な現状に、ただただ恐怖を感じずにはいられない描写の連続でありました。
今作の舞台はインドのムンバイでしたが、中東ってこういったテロ事件やそれこそ紛争なんか頻繁に起きてるエリアだと思うんですけど、国民を守る治安維持のための部隊とかって少ないんですかね。
大きい国ですから全部が全部ってことは無理でも主要都市の一つであるムンバイくらいはもう少し治安の強化に努めてもらいたいと感じいました。
これが日本だったらと思うととても怖いですけど、やっぱりなす術なく被害が拡大してしまうんでしょうね。
そもそもテロに対しての対策なんて難しいのかもしれないですね。
今作のようになんの前触れもなく始まってしまうんですから、防ぎようがないのも仕方のないことなのかもしれません。
テロの無慈悲な殺戮に恐怖を感じるとともに、今日本が平和であるありがたみや世界が安全に過ごせるようになってほしいと強く願うことができた映画でした。
テロリストの少年たちの境遇
この作品で印象的だったのは犯人側の視点もしっかり描いていた点です。
冒頭、ゴムボートに乗ってムンバイに到着した若い男たちの集団がテロリストなのですが、どこにでもいそうなごくごく普通の少年たちなわけです。
でもそのシーンで流れるセリフは、この集団を導いているであろう首謀者らしき人物の洗脳にも近い言葉なんですね。
異教徒は人間として見るなだとかもうめちゃくちゃなこと言っているんですけど、実行犯の少年たちは素直に従順に言われたことに従います。
人を殺すことになんの感情もなく当たり前の出来事のような感じで淡々と行動していく姿が、完全に首謀者に洗脳されていることを物語ってます。
まだあどけなさが残るその少年たちがなぜテロリストとなっていったのか、作品を観ていくと少しずつわかってくるんです。
最初にホテルに入ってきた時には、その豪華さにポカーンと口を開けて「まるで楽園のようだ」と驚いた表情を見せたり、部屋のトイレで水が流れることに感動していたり、ルームサービスの食事の美味しさに喜んでいたりと、ここだけ見てもこの少年たちがかなり厳しい環境で生きてきたということがわかります。
実行犯のある少年が怪我をしてしまい見張り役になった時には、こっそりと家族に連絡をしてしまうシーンがあるんですが、その少年が気にしているのは家族にお金が支払われたかということ。
おそらくこの任務につく見返りとして大金をもらえるという約束があったんでしょう。
その少年は家族のことを大事に想っている、ごく普通の人間だということがわかる場面でした。
首謀者はそういった貧しい環境下にある少年たちにうまく取り入って、テロの実行犯とし育て上げてきたのでしょう。
クライマックスのシーンで人質のザーラが同じイスラム教徒だったと知った少年は、首謀者の命令に従うことができずに、初めて自分の意思でザーラを見逃したところでは人としての希望が微かに残っていたんだと、人と人は分かり合えるんだと思わせてくれたのではないでしょうか。
テロ行為はもちろんあってはならないことではありますが、その裏にはこういう形でどこにでもいる普通の人が、一歩間違えたら闇に落ちていってしまう環境が当たり前のようにあることなんだと思わせるようなメッセージに感じました。
エンタメとして見応えがハンパない
テロの悲惨さや、平和へのメッセージなどたくさんの想いが込められた作品ではありますが、純粋に映画としての面白さも文句名なしの出来になっています。
まず最初にテロリストたちが襲撃を始めるまでに何気ない日常を写し、登場人物のことやホテルの状態がよくわかるし、それによってこれから起こる惨劇の凄さがより怖いものに感じることができたのもわかりやすかったです。
そして始まる襲撃からは緊張の連続となる演出が盛りだくさん。
デヴィッドとザーラが食事に行ってしまったために、離れ離れになってしまったシッターのサリーと赤ちゃんの部屋に、テロリストたちが押し寄せてくるシーンでは、クローゼットの中に身を潜めるサリーなのですが、赤ちゃんがいることによっていつ泣き出すかわからない異常な緊張感を生み出していました。
この赤ちゃんを使った演出なんかは「クワイエット・プレイス」にもあったもので、音を出してはいけない状況下での、泣くことが当たり前の赤ちゃんという存在を入れることによって起きる緊張感や絶望感をうまく描いてると思いましたね。
他にもデヴィッドがその部屋に合流するために乗ったエレベーターでは4階に行きたいデヴィッドに対し、3階から乗ろうとするテロリストとかち合ってしまうというときに、ルームサービスの食事台の影に隠れてなんとかやり過ごすギリギリのやり取りにも息が詰まったり。
安全なチェンバースに閉じこもった従業員と宿泊客たちにドアを開けろと詰め寄る展開では、向こう側にいるのは敵なのか味方なのかを判断しなければならないスリルなんかもあったりと、常に死と隣りあわせな緊張状態がずっと続くのでパニックムービーとしての楽しみも存分に味わえる優れたエンタメ作品だったといえますね。
いつ誰が犠牲になってもおかしくない状況って本当に見ててしんどいというか、「やめてくれー!」って気持ちにさせられます。
そういったところも実際の事件を扱っている作品ゆえのリアルさがありました。
ホテル・ムンバイを評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 8/10
圧倒的な絶望感と緊張感を体験することができるリアルな描写と、それでいてエンタメ映画としての絶妙にスリリングな展開が融合している。
テロリストと勇敢なホテル従業員の心情の移り変わりの細かい描写が素晴らしかった。
終わりに・・・
この作品を振り返ると平和への希望や人への希望、その逆に悲劇は突然起こるという現実、たくさんのメッセージが込められていて、見終わったあとは正直かなり心が消耗してしまうところもあるかもしれません。
だけどそれでもやっぱり人と人は分かり合えるんだという希望があることがわかったし、単に宗教的な思想だけではない複雑なことが絡み合って起こってしまった事件なんだと感じました。
その意味でもこの作品を世に送り出してくれたすべての人たちに感謝ですし、遠い国で起こったことと終わらせずに、これからどう生きていけばいいのかと常に自分に問いながら生活していければいいなと思いました。
大切なことを教えてくれた作品になりました。
ありがとうございました。