毒戦 BELIEVER
韓国ノワールってすごく過激ですよね。
ものすごいバイオレンスであったり、巨大権力の闇だとか攻めてる作品が多くて大好きなジャンルです。
秘密だらけの誰も見たことがない麻薬王を追い求める、捜査官としての視点から描かれるのが今回の舞台。
「スカーフェイス」や「ブロウ」や「アメリカン・ギャングスター」など、どちらかというと自身が麻薬王と成り上がっていく側の作品が多い気がするなかで、警察側からの視点で描くというのにも注目したいですね。
今作は僕の好きな作品である「新しき世界」や「アシュラ」よりも多い観客動員を叩き出した作品ということで、観る前からハードル上がりまくりでめちゃめちゃ楽しみですね。
元々は香港映画で人気だった「ドラッグ・ウォー 毒戦」のリメイクらしいのですが、そちらは観たことがないので、純粋に作品を楽しめるんじゃないかなあと思います。
そんなわけで今回の鑑賞となりました。
よろしければお付き合いくださいませ。
毒戦 BELIEVERを観た感想
静かにそして大胆に暴れ狂う個性的なキャラクターたちに圧倒される。
捜査を通して通じ合うふたりのいびつな絆に感情が揺さぶられずにはいられない。
以下ネタバレがあります。
ラストの解釈について
この作品における一番重要な部分であるラストシーンでの解釈は、観る人によって意見が分かれる内容だと感じました。
ウォノ刑事がずっと追っていたイ先生は、組織に捨てられた少年として一緒に捜査に加わっていたラクでした。
このイ先生の正体については、登場人物も少ないですし消去法で考えるとすぐにラクだということはわかってしまいましたが、なぜイ先生であるラクがウォノ刑事と手を組んで組織に潜入したのか。
僕の解釈では工場を爆破した偽のイ先生をあぶり出すためなのかなと。
事実ブライアン理事に正体を明かした時には、一番愚かなのは自分に成り済ましたことと言って事故にあった犬と同じ箇所を焼き焦がしてしまう制裁を加えています。
そして普段無表情で無感情のラクは、自分が何者なのか常に自問自答しているような人間でした。
そんな彼にとって、必死にイ先生を追い求めるウォノ刑事に自分という存在を見つけてくれる人なのかもしれないと思ったのではないでしょうか。
この人になら自分をわかってくれる。
そんな希望的な感情を持って捜査に加わって行ったような気がします。
捜査のなか何度もウォノ刑事の命を救うことからもラクは正直な気持ちで力を貸していたのではないでしょうか。
ウォノ刑事の方もそんなラクに疑いの目を向けながらも、徐々にラクに信頼を寄せていくようになります。
信じたい気持ちと疑う気持ちの狭間で揺れ動くウォノ刑事。
正義を貫きとおす固い意志を持っていた彼も、ラクの正体を知りブライアン理事の逮捕で落ち着いてしまった世間や警察の体制に疲れてしまったんですよね。
必ずしも真実がすべてではないと悟ってしまった彼は警察から退いていくのですが、最後に捜査に加わってくれたメンバーたちに「お前たちは疲れないでほしい」と言って去っていく姿にやるせなさや寂しさを感じました。
ウォノ刑事にとって最後に残ったのは、イ先生であったラクの存在だったんですね。
真実を突き止めて決着をつけるためになのか、はじめから別の結末を考えていたのか。
ウォノ刑事は犬に仕込んだ発信器をたどってラクの住んでいるアジトを突き止めます。
冬景色の世界で犬と聾唖兄弟と共に静かに暮らしていたラクがそこにはいました。
ふたりが対峙するなか、ウォノ刑事の「人生で幸せだったことはあったか?」という問いにラクは無言でウォノ刑事を見ます。
直後、アジトの引きの絵から一発の銃声が流れ物語は終了。
どちらがどちらを撃ったのかはわかりませんがどうだったのでしょう?
ウォノ刑事からするとしっかり決着をつける目的はあるけど、最後の最後でラクを信じたい気持ちから撃てなかったとも取れるし、ラクの方も自分を見つけてくれたことに覚悟を決めて撃ってくれという表情にも見えるし、もしくはここに来たらあなたを撃たなくてはならないみたいな表情にも見えるし、ホントにどっちにも解釈ができるシーンなんですよね。
ただひとつ確かなのは、どういう結果になろうとも見ていて寂しさを感じずにはいられないし、こういった背景から今の社会の不条理さなんかも見て取れるところがあって、やっぱりやるせなさが残るラストシーンになっていたと思います。
銃声が鳴ったのを気づかない聾唖兄弟の様子なんかもさらに寂しさを誘っていました。
キャラの濃い狂人たちが暴れ回る
誰もその顔を知らない謎の麻薬王イ先生を追う麻薬取締官が、組織に捨てられた少年と手を組み、狂人たちがはびこる危険な潜入捜査をするうちに、お互いに生まれる信頼感との間で揺れ動く疑惑が核心に変わったことによって訪れる結末に儚さを感じた物語でした。
巨大麻薬組織の頂点に君臨しているが、誰もその姿を見たこともない「イ先生」の正体を追う麻薬捜査官のウォノ刑事が、ある日に麻薬製造工場の爆破事件によって組織に捨てられた少年のラクと手を組み、組織へ潜入捜査を試みることになるんですが、行く先々で出会う組織の人間がまあなんともぶっ飛んだ奴らばかりでして。
組織が作る麻薬を欲しがる中国の大物バイヤーのハリムは特にイカれた奴で、ガウンにパンツ一丁という見た目からヤバイし、ヤク漬けで情緒不安定だしで絶対関わったらダメな系の人間なんですよね。
ウォノ刑事と戦う時も笑い踊りながら蹴ってくる感じとか恐ろしすぎます。
そのハリムの妻のポリョンも強烈な存在感を放っていて、ハリム以上にイっちゃってるテンションと見た目もエキゾチックな感じですごくハマってました。
ハリムと会合の後、今度はそのハリムになりすまして組織のドラッグディーラーであるソンチャンと会合するために、同じシチェーションでハリムと同じことを演じるウォノ刑事には笑ってしまいましたが、新たに登場したソンチャンもなかなかのクセがありまして。
いわゆるブツの取引を実際に行う役の下っ端なんだけどちょっと偉いやつってポジションの男なんですけど、実働部隊のボスだからもちろん自分で手を下す残虐性はあるんですけど、所詮下っ端なんで徐々に小物感がバレてしまうというか、上司にも愛想をつかされちゃうしラクにもナメられているような態度を取られてしまったりと、なんとも可哀想なキャラクターでした。
そして3人目に出てきたのが、表向きのトップであるイ会長の次男で、神学を学び信仰に基づく経営を行うブライアン理事という男。
組織の大物であり、一見品の良さそうなたたずまいだけどキレると残虐な部分が顔を見せるっていう人物なんですが、実際は何もいいところを見せてくれないショボい役どころなんです。
まず留学していたカナダで信者に大麻を売ったことがバレて追放という経歴からして情けない感じだし、ウォノ刑事と対決するところでも助手から運ばれてきた箱を開ける際に「ゆっくり開けろよ」とビビってしまってるし、戦ってもそんなに強くない。
そしてついに現れた本物のイ先生と対面した時の恐れおののいている小動物のような顔には見ていて可哀想になってしまいました。
「そんなんだから父親にも見下されるんですよ」というイ先生の言葉がすべてを物語っている、ラスボスの器になりきれない偽りのトップという感じのキャラクターでしたね。
他に良かったのが組織の製造工場にいた聾唖の兄弟はいい味だしてましたね。
ラクと通じ合っている関係も狂気の世界の中で唯一の温かさがありましたし、工場の風景なんかも秘密基地っていう感じであの兄弟たちとすごく合っていました。
出てくるキャラクターは多くはないですけど、ひとりひとりが濃くて狂気に満ちている奴らばかりなので、組織の異常さが伝わってきて常識がまったく通用しない命がけの捜査なんだと思わせてくれる内容でした。
毒戦 BELIEVERを評価!
はまはま的評価 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 8/10
麻薬王イ先生の正体を追うサスペンス要素。
2人の主人公が協力し合うバディムービーとしての面白さ。
わかりやすくて魅力的なキャラクター。
観る人に委ねる余白のある解釈。
どれをとってもクオリティの高さを感じることができました。
終わりに・・・
「新しき世界」や「アシュラ」を上回る観客動員で大ヒットとなった今作ですが、その内容は観る人それぞれがそれぞれの解釈で終えることができる、見終わった後に語りがいのある素晴らしい作品だったのではないでしょうか。
イ先生の正体は誰なんだというところから、捜査官の命がけの潜入捜査と組織の狂気に満ちた濃いキャラクターの暴れっぷりと見どころ満載の内容にお腹いっぱいになりました。
やっぱり韓国映画好きだなあ〜と改めて思いましたねw
めっちゃ楽しませてもらいました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。